年の暮れにはおごそかな時間を

北風が冷たい数年前の冬。夕方の月が夜空に昇り始める頃にお寺がたくさんある街に降り立ちました。年末ということもあって、軒先には門松なども飾られており「今年もあと僅か」と感じたものです。神社へ続く境内にある店はどこも早い時間に閉めてしまうためか人影もまばらで、私はトボトボ歩きながら一軒の喫茶店のドアをくぐりました。暖かな照明に照らされた空間は、冷えた私の心と体を一気に温めてくれたものです。早速、席に着いてカフェオレを頼み、本を片手にゆっくりと小一時間ほど過ごしました。この時読んでいた本は、暮らしや料理について書かれた随筆でした。そこにはおせち料理や春の七草、夏の日差しに負けない体を作る料理など四季折々のレシピや生活の知恵が書かれていて、とても勉強になったことを覚えています。ミルクたっぷりのカフェオレとコーヒーのお供に出されたお豆を食べながら、読書の傍らその年に読んだ本のことを思い出したりもした、感慨深い時間でもあったのです。
先日たまたまその喫茶店の前を通りかかりました。あれから月日が流れ季節も変わりましたが、凛とした佇まいでそこにある店を見ていたら年末に立ち寄った日のことを思い出し、とても懐かしく思ったものです。そしてまた年の暮れにここを訪れて、物思いに耽るのも悪くないと感じたのでした。

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